ストックホルムへ家族で移住し、現地企業 Öhlins Racing ABでエンジニアとして働く傍ら、スウェーデン企業への転職・移住サポート事業 LIV INNOVATION の代表を務める37歳、二児の父親です。
今日から一週間ほど日本へ海外出張です。
本業のエンジニアの方のお仕事です。平日は静岡に滞在し、土日は東京の実家にいます。
半分はワクワク、半分は家族と会えない寂しさ。妻にはワンオペ育児を押し付けるので気まずい…
しかし、海外出張で金曜発なんていうのは日本だとどうでしょうね、
「会社の金で遊びに行くのかー!」
と言われそうですね。
スウェーデンで働いてる人からすれば、結論としては
「そうです、会社の旅費で少しばかり異国の地で週末をエンジョイさせてもらいます」
としか言えません。
前回、今年の6月に日本へ出張した時は、日本での仕事の後に有休を何日か取ってせっせと友達と会ってきました。
これは違法でも何でもなく、かつ会社に不利益を被る話ではないので全くもって問題ありません。
また、BMW時代にビックリしたことですが、出張に家族や恋人が帯同してきたりします。
これも全然ありです。
取引先が、
「今夜は会食にお連れしたいのですが…」
と言っても、
「すみませんね、家族が来ているもんで」
となり、取引先が
「えっっっ!」
となる光景も何度か見た事があります。
契約としては1日8時間働けば良いので、24時間の内、働いている以外の16時間は出張先で寝ていようが、観光しようが、友達と遊ぼうが、家族と過ごそうが、恋人とイチャイチャしようが、それは本人の自由です。
私もBMW時代に家族をミュンヘンに連れて行ったことがあり、同僚宅に訪問させてもらったりしました。
仕事は仕事で8時間。それ以外はプライベートの話なので何をやってもOKです。
さてさて、ところで、私の仕事について少々書いてみます。
◼︎自動車業界の研究開発業務の一例
このブログでは私が何をやっているかは一切触れてきませんでしたが、本日初めて触れます!
私はÖhlins Racing AB、通称オーリンズで自動車用サスペンションの開発をしています。
何だそれはって感じですよね。
そもそも自動車というのは、2万点にも及ぶ部品の集合体です。
この内、完成車メーカー(トヨタとかホンダとかBMWとか)が自前で作ってる部品は主にエンジンやボディで、その部品点数の比率は全体の15〜20%ぐらいです。
その他大部分は、完成車メーカーが専門部品メーカーから技術や部品を購入しています。
我々はサスペンションと言われる部品を完成車メーカーに納入することで売上を得ています。
見た目はこんな感じ。タイヤを外すと見えるバネと筒が我々の部品。筒の中にはオイルと窒素ガスが入っており、上下に動かすと減衰力が発生する。これをサスペンションといい、路面の凹凸から来る衝撃を緩和する装置。つまりこの部品がないと車は運転不可能!
こちらにかっこいいムービーがボルボから公開されています。このサスペンション、私が開発しました!個々の部品番号は暗記しているレベル。
車というのは大小様々あり、車重も大きく異なりますし、乗り味をスポーティにしたい、ラグジュアリーにしたいなどと車種によって様々な特性が求められます。
完成車メーカーは、我々部品メーカーに要求仕様書として
「こんなのが欲しい。保証してほしい内容はこれ。」
というものを発行します。
その他技術仕様書として図面や様々な書類のやりとりが発生します。
時には客先に出向き、または我々の会社へ来てもらい、内容の確認等を行います。
私が、ボルボ本社があるGöteborgへ頻繁に行くのはこの為です。
私は完成車メーカーから送られてくるこうした書類に目を通し、彼らの要求をどこまで満たせるのかを社内の色々な部署を巻き込み検討します。
検討する内容は、要求仕様に対して「機能・性能・商品性・耐久性の観点で我々がどこまで保証できるのか」になります。
そしてこの内容は私が所属するR&Dとは別の営業部が作成する見積りと直結します。
開発初期段階ではまずは概算のコストしか算出できないですし、客先も車両本体の開発状況に合わせ要求仕様をアップデートしてくるので、長い開発であれば数年間に及びこの作業を何度か繰り返します。
たいていこの要求仕様書は、例えばA4版で100ページぐらいあったりしてまぁ読むのは大変です。どのメーカーも全て英語で書かれています。
しかし、これは一字一句逃さず全て読む必要があります。万が一納入した部品に不具合があればリコールにもなりかねませんし、そうした場合に費用を負担するのは客先である完成車メーカーになるのか、それとも納入した部品メーカーの責任となるのか、この要求仕様を満たしているのか否かで潮目は大きく変わってくるからです。
当然ですが、この要求仕様書を読んで内容を理解し、社内のそれぞれの部署に詳細の検討項目を展開してそれらをコストのバランスを見ながら取りまとめるというのは新人にはできません。
自動車の開発とは何なのか、コストの見積り方はどうなるのか、各テストの難易度や期間、技術的な課題・チャレンジは何か、これらを分かっていないと勤まりません。
というわけで、自動車業界に限った話ではありませんが、「完成車メーカーが部品メーカーに対して要求仕様を提示し、部品メーカーはそれを満たす」という構図が業界の常識です。
これは日本を出ても変わりありません。私がスウェーデンで初日から即戦力で働けているのがそれを証明しています。
しかし、2万点もある部品を全て完成車メーカーで設計、確認テストはやってられませんからね。
昨今は各部品の電子化が進み、各部品の複雑さが増しています。完成車メーカーはそれを取りまとめるだけでも精一杯となります。
ただ、部品メーカー(サプライヤーとも言う)といっても大小様々あり、デンソー、Bosch、コンチネンタルなどのメガサプライヤーは、中小規模の完成車メーカーよりも従業員数や売上が大きく、こうしたメガサプライヤーが開発する技術は完成車メーカーにとって頼もしい存在でもあり脅威でもあります。
トヨタレベルの規模の完成車メーカーであればこれらのメガサプライヤーと対等に、もしくは優位に話を進められるかもしれませんが、規模の小さなメーカーでは逆にメガサプライヤーに
「すみませんね、トヨタさん用に開発したコレなら売ってあげてもいいですよ」
なんて言われちゃうことも多々あります。
ところで、最近↓のブログを読みました。
"新卒で入社した本田技術研究所をたった3年で退職しました"
https://honda.hatenadiary.jp/entry/2018/09/17/175609
このお方はプロジェクトエックスを見てホンダに憧れて入社したそうですが、実際は毎日パワポの紙芝居で思い描いていた世界と異なったそうです。
(私も勢い余ってコメントしちゃいました)
私もかつてホンダの研究所で働いていたので分からなくもないのですが、気の毒なのはこのお方に限らず、入社する前に完成車メーカーで研究開発をやることがどういうことかを理解していない人が数多く存在するのではないかということです。
特に自動運転ともなると、まずはアルゴリズム含め諸々の基幹技術を持っているのはどの会社なのか、この辺りが数字で現れるのは特許の出願件数でしょう。
ちゃんと調べたわけではありませんが(調べろよ!笑)、トヨタ、GM、ワーゲンの1000万台メーカーとBosch、コンチネンタルなどのメガサプライヤー、加えてGoogleやソフトバンクになってくるのではないでしょうか。
そしてこれらの会社の関係性がどうなっているのか、完成車メーカー、メガサプライヤー、Googleがやっていることをなんとなくでも理解し、業界の構図を理解せずに
「プロジェクトエックスを見て憧れました」
だけで入社するのはリスクが高過ぎるでしょう。
まぁ私もプロジェクトエックスを見て憧れてホンダに入ったんですけどね…笑笑
私が入社したのは2005年。時代が違います。当時はまだ自動運転など存在していませんでしたし、まだまだ泥臭い開発のど真ん中に放り込まれてほとんど部活なようなノリで毎日基本的な技術や社会人としての働き方を教わりました。
これには非常に感謝しています。
◼︎業界の構図を理解することが大切 スウェーデンではどうなってる?
話がどんどんそれましたが、先のブログの著者さんが悪いって話ではないのです。
こういった業界の構図を踏まえて自分が何をやりたく、それを実現できる場所はどこなのかを大学で教えるべきなのです。
(もしかしてちゃんと存在する?)
別に大学でなくてもいいんですけど。
スウェーデンではどうなっているのか、実は日本とはぜーんぜん違うんですねぇ。
こちらの学生はインターンとして企業で半年、一年というスパンで働き、給料ももらいつつ、修士論文や博士論文を書き上げます。
こうしたインターンはBMWでも沢山見かけましたし、今の会社でもよく出くわします。
そして彼らは若いだけでなく賢い!
「こんなソフトをまだ使っているんですか」
なんて涼しい顔して言われちゃいますからね。
インターンを舐めたらいけません。
そして会社としても新しい風を吹かせてもらえるなどのメリットがあるので彼らを積極的に受け入れています。
ですので彼らには割と長期間に渡り、実際に従業員として働いてみることができるのです。
彼らは正社員として身を置くにはどの業界のどの職種が良いのか、それが実現できる場所はどこになるのか、という順番で考えています。
その結果、行き着く先は大手であったりベンチャーであったり自分で起業したり様々です。
彼ら若者からは、よく考えてから決断をしたことが伝わってきます。
また、この決断が一発目から完璧である必要もありません。
ですから先のブログのように
「3年で辞めてやったぜ!」
と言っても、スウェーデンでは
「へぇ〜」
としか言われません。
若いうちは2〜3年で仕事を変えるのがむしろ普通なのでね。
日本の大学っておかしなことになってると思いますよ。
三年生からシューカツが始まって、私は四年生になった瞬間に内定が出ちゃいましたから。
この悪しき伝統の塊であるシューカツを合理的な方向に変えていかないと、先のブログのお方のような被害者意識丸出しなお方が減らないのでは!?
私もホンダに入ってしばらくは楽しくも辛い日々が続きましたが、それらを乗り越えられたのは単にバイクが好きだったからです。
本当に心の底からホンダというブランドに誇りを持っていましたし、バイク好きの情熱があったからこそ、パワポの紙芝居が散見されたところでどうってことなかったですけどね。
でも、こういう方がこうして声を上げられる時代になったというのは一つポジティブなことではないでしょうか!!
さてさて、パスポートを忘れないようにしないと。
本日も子供達を送り、ちょっと出社して空港へ向かいます…慌ただしい…
ではでは
あなたのスウェーデンへの移住を実現させます
LIV INNOVATION